プチプチ文化研究所

プチプチ文化研究所

〈第3回〉プチプチ×守山正樹先生「プチプチを使って指先で考え、心を育てる」

プチプチに着目したきっかけ

所長:どうしてプチプチを使おうと思ったのですか?
守山先生:触れて変化がある物体で、何か発見に繋がると思ったからです。
所長:プチプチを語る上で、そのようなご見解ははじめてです。

所長:そのような考えに至られた経緯を教えてもらえますか。
守山先生:医学部生たちが「物に触れて考える」という実習を1992年頃から行っています。医学部なので、病気の人の立場になることはとても大切です。といいましても、病気を体験するのは難しく、何か良い方法はないだろうかと悩んでいたときに知人の助言で、アイマスクをかけて、目が見えない状況は簡単に作れると気がつきました。最初は目が見えない状態で街歩きをしたりしていましたが、天気が悪いとできないため、椅子に座ってできることとして、身の回りにある消しゴム、えんぴつ、食器、そしてプチプチにも触れたりしていました。プチプチはどうしても触ると潰してしまい、潰してしまうと、「物に触れて考える」ことがそこで終わってしまうことから、その頃はプチプチのおもしろさは分かりませんでした。

所長:2014年頃から、「触れることを通して、いろんなことを思い出すことが大切ではないか」という研究をはじめたとお聞きしました。この研究をはじめてから、プチプチっていろいろな可能性があるのではないかと感じたのがあらたな展開への直接のきっかけでしょうか?
守山先生:触れて変化がある物体で、何か発見に繋がると思ったからです。

プチプチを使って指先で考えるとは

所長:何かに触って、五感で考えよう!という授業は守山先生独特の素晴らしい手法ですね。
守山先生:やりたいと思った時に助言をくれた人がいたらからできました。
所長:丸暗記の真逆で、体で感じることができそうな授業ですね。
守山先生:たとえば、公害の授業で水俣病のことが出てきますが、教科書には末梢神経の症状のことや、最初は海の近くにいる猫が影響を受けて死んでしまう、と記述されています。プチプチに触れながら、「これ(プチプチ)が猫の肉球だと思ったらどう感じる?」「100粒のプチプチが100匹の猫だとして、有機水銀の影響を受けて、そのほとんどが死んじゃったらどう思う?」など、プチプチに触れながら考えると、より身近にとらえられて、深く考えられるのだと思います。

守山先生:最近ではAIなどでの画像診断が進み、自分の手で患者さんに触れるよりも、情報から診断することが進んでいます。医学部でプチプチを用いて授業をするときには、「触診や聴診器で音を聞くなど、人間の情報処理能力は意外にも高く、触れたり耳を澄ませたりして、気がつくことがたくさんあります。自分の指先がどのぐらいの感度を持っているのか、触れて考えてみましょう」と、問題提起をしてからプチプチに触れてもらうと、よりリアルに考えてもらえることを実感しています。

プチプチを使って考えてみよう

所長:一般の方が日常生活や仕事の時に、プチプチを使って考えることができますか?
守山先生:その提案が難しいところです。まず、この場合はプチプチを潰して遊ばないようにしていただいて(笑)、何かを考えながらプチプチに触れることがポイントだと思います。指先でプチプチに触れて押してみたり、プチプチから押し返されたり、球体の感覚を感じながら、考えるといろいろな方向から考えることができるのではと思います。思いがけない方向に考えが進んでいったりすることもあると思います。
所長:マインドフルネスというか、「今ココ」に集中できるツールになりそうですね。

学会でも発表されました。

守山先生:「触れることを通して、いろんなことを思い出すことが大切ではないか」と研究を始めてから、認知症予防学会、健康教育学会、健康学会、精神衛生学会と4つの学会で発表をしました。ポスターセッション形式でしたので、興味を持ってくださった方と直接お話することができるのですが、私はそこでプチプチをお渡ししながら説明をしました。そうすると、みなさん、やはりつぶしはじめます。「どうしてつぶすのですか?」と質問すると、一緒に考え始めてくれるのです。このことはプチプチならではの良い空気感だと思います。
所長:プチプチが学会で発表されるなんてすごいことです。

プチプチを使って指先で考えることは、世界共通?

所長:このメソッドは世界的にも通じるでしょうか。
守山先生:絵を使って自覚症状を伝える研究をしていた時期があります。日本で描いた絵をアメリカに持って行って分かるのか?と。結果的にアメリカでも分かってもらえました。プチプチの場合もそのような検証をしてみないと分かりませんが、以前、8カ国からの研修生にプチプチに触れてもらったときの経験からすると使えるのではと思います。ただどこまで深くできるかは分からず興味深いところです。

これからの活動

所長:今後のお考えがあれば教えてください。
守山先生:AIなどもどんどん教育にも入ってきています。コロナ禍のため、看護大学でも患者さんに会えなくてバーチャルリアリティでゴーグルをつけて、仮想現実で病院の環境を体験するような試みも始まっています。昔の医師は五感を使って診断していましたが、画像診断に置換されていますし、全体の傾向としては指先や感覚を使わなくなってきています。しかし人間の体はまだまだとんでもない能力を持っていて、電子的なものを使わなくても感じたり考えたりすることができると思います。私はプチプチがきっかけでそのことに目覚めたわけですが、身近にあるポリ袋やメモ帳一枚でも触って考えることができます。世界が急激にAIやVRの方向に向かっています。コロナの影響でさらに加速しています。そんなに急がないで人間の持っている能力をもっと開発できるといいと思っていますし、その一つの手がかりがプチプチにあると思っています。
所長:守山先生、ありがとうございました。

~守山先生プロフィール~

守山先生ご著書
「触れることと生きること、皮下気腫とプチプチから今後の教育へ」
https://amzn.asia/d/0YWIj4R
「健康教育の冒険: 心と行動をプチプチとポリ袋から 手で考える試み」
https://amzn.asia/d/g6kqBeH

日本語論文
http://doi.org/10.15019/00000675

前の記事 記事一覧へ戻る 次の記事